飲食店で成功したいのなら、絶対に忘れてはならないことがある。そのひとつが「外食はもっとも身近なレジャーだ」ということだ。飲食店は、単純にお腹が空いたから何か食べるという場所ではない。だれにとっても、もっとも身近なレジャーのための場所。それが飲食店なのである。これは非常に大切なことだ。
いまの時代、食品などあり余っている。コンビニに行けばたいていのものは揃っている。そして、あろうことかコンビニに負けてしまう飲食店が後を絶たない。その理由はいろいろあるだろうが、コンビニと同じ土俵で勝負しようとしていることが大きい。要するに、レジャーとしての外食ではなく、たんなる利便性としての食品を売ろうとしているわけである。これではコンビニに勝てるはずがない。なにしろ、弁当にしろ調理パンにしろ、コンビニの商品は飲食店よりもはるかに安いし、価格に対する付加価値も高い。
最近、飲食店の最大のライバルはコンビニというフレーズをよく耳にするが、本来、そういう考え方はおかしいのである。たしかに、飲食店もコンビニも食品を売っている。しかし、両者には決定的に違うこと、いや違っていなければならないことがある。それがつまり、レジャー性への対応ということなのだ。
ここでいうレジャーとは、生活に欠かせない喜びとか楽しみという意味である。もちろん、欠かせないとはいっても、それがなければ生きていけないというわけではないが、生き甲斐のかなりの部分はなくなってしまうだろう。旅行とかドライブ、スポーツといつた一般的な意味でのレジャーは、いつでもできるというわけではない。たまの楽しみだ。その意味では、三〇年前の外食はまさにそれだった。月に一回か二回、日曜日に家族で外食するというだけで、ちょっとしたお祭り気分になったものである。
もちろん、いまでも家族や友だち、恋人との外食が大きな楽しみであることに変わりはない。いわゆるハレの場である。しかし、外食に慣れたいまの人たちにとって、ただ飲食店を利用するというだけではレジャー=ハレの場になるとは限らない。昔なら、とりあえず外でふだんと違う料理を食べたりお酒を飲むというだけで完結していたが、いまの人たちはそれだけでは満足しないだろう。
どんなお店でどんな楽しみ方をするのかということが、何よりも大切な要素になっている。つまり、豊かな時代になって、お客様が飲食店に求めるレジャーの中身が大きく変化したのである。しかも、見逃してはいけないのは、いまはコンビニやデパ地下などの加工済み食品ばかりでなく、家庭内での食事のレベルも格段に高くなっているということだ。そういう「そこそこおいしい食事」に慣れ、さらに外食にも慣れているお客様を確実に呼び込むためには、飲食店ならではの、さらに高い付加価値を提供しなければならないはずである。そこに気づかないお店は、飲食店同士の競争はおろか、コンビニにさえあっさりと負けてしまう。
貧しかった時代(といっても、たかだ30-40年前だが)には、飲食というモノをポンと出してさえいれば、それだけで飲食店として通用した。しかし、いまは違う。料理がおいしいことは当然として、プラス豊かな時代にふさわしいレジャー性を提供できなければ、お客様は飲食店として認めてくれないのである。
ところで、豊かさと聞いてすぐにモノを思い浮かべる人がいまだにいるが、それはまさに、貧しかった時代の発想だ。いまのお客様が飲食店に求めている豊かさとは、極端にいえば料理やお酒ではない。料理やお酒も絶対に必要なのだが、それらはその場を盛り上げるための道具立てにすぎないのだ。では、
求めている豊かさとは何か。それは、ゆとりとか寛ろぎといった情緒的な価値である。飲食店を利用する第一の目的はあくまで、楽しく豊かな気分で過ごすことなのである。ただし、楽しく豊かな気分で過ごすことといっても、誤解してはいけない。お客様がそういう気分になるのは、高級感のあるレストランばかりではない。たとえば、小規模個店の繁盛店の代表格といえばラーメン店だが、繁盛しているラーメン店は別に高級店などではない。そういうことではなく、レジャーとしての楽しさがお客様をひきつけるのだ。
さらにいえば、繁盛ラーメン店と売れないラーメン店の違いは、実は「味」だけではない。おいしいことはもちろんのこと、楽しさも提供できているかどうかなのである。ここに、飲食店繁盛のための大切なヒントが隠されている。