飲食業のビジネスとしてのメリットは、次の2つに代表される。
。投資額を低く抑えられる
。粗利益率が群を抜いて高い
もちろん、ひと口に飲食店といっても、店舗だけでも億単位のお金をかけるような高級店もある。しかし、そういうのはあくまでも例外である。資金力のない人でもオープンできる一般的な小規模店の場合であれば、初期投資額は概ね2〜3000万円以内に収まる。しかも、本書で私がお薦めしている居抜き店舗を上手に活用すれば、確実に2000万円以内の投資額でオープンすることができる。
いうまでもないことだが、この程度の資金なら脱サラの人でも十分に用意することができる。実際、小規模飲食店の開業は昔から、個人が独立するいちばんの近道として脱サラ組に重宝されてきたし、それはいまもまったく変わらない。というより、飲食業はますますサラリーマンの転職先として注目されている。
長引く不況下でリストラの嵐が吹き荒れた結果、サラリーマンの生き方が変わったとよくいわれる。終身雇用制や年功賃金といった日本的一雇用慣行が大崩れして、大企業に勤める人たちですらぬくぬくしていられなくなってしまった。とくに40代から50代のサラリーマンは人員整理の対象になりやすく、再就職もむずかしい。最悪の状況だ。
しかし、会社がアテにならないのなら自力で将来を切り開こうという積極的思考の人も少なくない。その意味で、飲食業は独立志向の時代の花形といっても過言ではない。話が少々それてしまったが、要は、飲食業とは個人レベルの少投資で開業できるということである。
それは言い替えれば、飲食業はだれもがチャレンジできるビジネスだということにほかならない。では次に、二つ目のメリットでぁる粗利益率の高さがどんなメリットなのか。そのことについて説明しよう。
粗利益公巳とは、売上高から材料原価を差し引いた残りの金額である。たとえば、800円で仕入れたものを1000円で売ったとしよう。この場合の粗利益高は200円、粗利益率は20%である。
飲食店の粗利益率は業種などによつて違ってくるが、 一般的なお店の場合は概ね65〜80%程度が標準になる。つまり、材料原価率は30〜35%ということだ。ところが、 一般的な小売業の粗利益率は、せいぜい20%程度でしかない。しかも、よく知られているように、小売業は激しいデイスカウント競争にさらされている。デパートが軒並み不振なのも、ディスカウント量販店にお客様を奪われているからだ。したがって、小売業で生き残るには、定価販売などほとんど考えられない。実際の粗利益率10%台など、当たり前の現象になってしまっている。
もちろん、ハンバーガーの安売り競争など、飲食業の世界にもディスカウントの波は押し寄せている。しかし、飲食業は小売業と違って、仕入れ値の決まった商品を値引きするわけではない。ここでは詳しいやり方は省くが、材料原価その他のコストコントロールや売り方のスタイルで対応できる余地が大きい。そのため、小売業のように粗利益率を露骨に削られないですむのである。
何業であれお店を運営するには、材料費のほかにいろいろな経費がかかる。大まかにいえば、人件費、家賃、水道光熱費などだが、当然のことに、材料費以外のこれらの経費は粗利益高から支払われる。そして残ったのが利益である。いまは家賃にしろ人件費にしろけっこうな金額になる時代だから、粗利益率が低いと、ある程度の売上があっても利益が出にくい。しかし、高粗利益率を確保できる飲食業なら、そこそこの売上でもしっかりと利益を確保できるわけである。
このように飲食業には、二つの大きなメリットがある。だから参入しやすいわけだが、勘違いしてはいけないのは、メリットがあることとメリットを生かすことは別問題だということだ。飲食業での成功はまさに、この二つのメリットをどこまで追求できるかということにかかっているのである。
とくに注意したいのは、店舗づくりなどで余計なお金をかけることで初期投資額を不必要に高くしてしまうことだ。せつかくのメリットを無視しては、結局はしなくていい余計な昔労を背負うだけである。
このことを肝に銘じてほしいと思う。