飲食業は「おもてなし業」である。おもてなしとは要するに、お客様がお店の中で少しでも気分よく過ごせるように一所懸命に尽くすという意味だ。真心を込めて尽くすから、お客様は喜んでくれる。そういう気持ちのいいお店だから、また来ようと思う。それがお客様の心理というものだ。つまり、いかにしてお客様に喜んでもらえるか、そこを追求することこそが飲食店の仕事ということになる。だから私はいつも、飲食業は奉仕業=尽くし業だといっている。
では、お客様に尽くすとはどういうことなのか。前節で、飲食店の価値は、商品、サービス、雰囲気の三つの付加価値の総合力で決まるといったが、これら三つの要素それぞれにおいて、お客様に満足してもらえるように努力すること。それがお客様に尽くすということの意味である。
たとえば、価格を抑えておいしい料理を出せるように工夫する。感じのいいサービスを心がける。こまめに掃除して店内をいつも清潔に保ち、小さいながらも季節の花を飾る。これらは皆、お客様に尽くそうという気持ちがあってはじめてできることだ。つまり、お客様に尽くすとは、つねにお客様の満足のために何かをしてあげたいと思い、それを細かい配慮として実践することである。儲かりさえすればいいという自分本位の考え方では、絶対にできないことだ。
飲食業を奉仕業と思えるかどうかで、結果は大きく違ってくる。本当に奉仕業と思っていれば、まず、お客様に心から感謝する気持ちが生まれる。当然、お客様を大事にしようと思う。だから、お客様の要望にはできるだけ応えようと思い、お客様が少しでも満足できるようにいろいろと気を使うし、そうすることでお客様が喜んでくれることが嬉しくてたまらなくなる。つまり、お客様の喜びが自分の喜び=働き甲斐になるわけだ。
お客様にしてみれは、こういうお店は満足度が高いから、また利用したいと思う。その結果、固定客が自然と増えていき、安定した繁盛店になれるわけである。一方、奉仕業と思えないお店はどうなるのか。もちろん、お金をいただくわけだから、一応の感謝の気持ちくらいは持っているはずだ。 一応のサービスもするだろうし、店内もある程度は掃除しておくだろう。
しかし、いろいろと注文をつけるような面倒なお客様には来てほしくないと思っていたり、食べ終えたらさつさと帰ればいいのにと思っていたりする。要するに、お客様がどう感じようと、そんなことにはあまり関心がない。売上さえ上がればいいと思っているわけである。こういうお店をお客様はどう思うだろうか。とても満足などできるはずがないし、当然、固定客などできるはずもない。立地がよければフリ客で何とかなるかもしれないが、いつまでたっても経営は安定しない。
お客様が喜んでくれればくれるほどお店は繁盛する。このことが本当に理解できれば、繁盛させることはけつしてむずかしいことではない