通常、居抜き店舗の場合は、保証金(敷金、権利金)のほかに造作譲渡代金を支払うが、それでも一般の新店舗よりも賃貸条件はかなり安い。投資額ということから考えれば、非常に有利な条件だ。
しかし、何でもそうだが、安いものには必ず理由がある。居抜き店舗が安いのは、 一般に居抜きは失敗したお店というマイナスイメージがあるからだ。マイナスイメージがあるため、ぜひとも借りたいという人は少ない。当然だろう。
したがって、家主としても家賃・保証金を下げざるを得ない。空きにしたままよりも、多少収入が減ってでもテナントに入居してもらつたほうがいいに決まっている。また、前の経営者は造作譲渡代金によって、少しでも撤退の穴埋めをしたいと思っている。だから安く設定されているわけである。
居抜きか新店舗かということは別にして、不動産業者との交渉では、最初に提示された金額を鵜呑みるだけ早く打っておくこと。なぜなら、手付金とは、業者との交渉権を確保するために打つものだからだ。ここを誤解している人が多いようだが、たんなる前払金ではないのである。
また、慣れていない人は、この物件と決めると焦って本契約をしてしまいがちだが、それではとても有利な条件は引き出せない。さて、実際の交渉では、物件自体のマイナス面を指摘することになる。したがって、本格的な交渉に入る前に物件と商圏の立地調査をして、前の経営者がこの店舗でなぜ失敗したのか、その原因をしっかりと分析しておく必要がある。
そのうえで、マイナスイメージのある店舗でオープンすることのむずかしさを訴え、少しでもリスク回避のために値下げしてほしいと交渉するわけだ。ただし、マイナス面を指摘するといっても、高飛車に出てはいけない。これはあくまで交渉なのだ。
別項でも説明したように、交渉とは、お互いに条件や要求を出し合い、話し合いながら両者の落としどころを探ることである。もちろん、少しでもこちらに有利に持っていかなければならないし、立地調査や分析もそのために必要なのだが、 一方的にそこばかり追求しても相手も納得してくれない。たしかにマイナス面はあるが、それを自分の経営努力でカバーしていくという姿勢を示すことが大切である。
また、通常、こういう交渉は家主の代理人である業者とするのがふつうだが、家主に会わせてもらうのもいいだろう。どうしてこの物件にこだわっているのかということを、飲食業に対する情熱を交えて訴えるのである。家主としてもできれば空き店舗のままにしたくないし、多少の金額よりも信用できるテナントをほしがっているものだ。
なお、交渉では予算も正直に打ち明けたほうがいい結果を生むことが多い。