前節で説明した立地調査によって、候補物件の立地条件はひとまずつかめると思う。しかし、ここで注意しておきたいのは、店舗の立地条件は必ずしも平面の条件だけではない、ということである。
平面というのは、駅からの距離とか商店街のどこに位置するのかといった、通常の立地条件である。一軒家なら別だが、テナントビルに出店する場合は、これにタテの条件が加わる。つまり、 一階、三階、それ以上の上層階、そして地下という条件だ。
もちろん、不動産業者の提示する賃貸条件には、これらタテの条件も勘案されているわけだ。常識的には階数によつて家賃・保証金が違ってくる。ただし、ここで大事なのは単純に家賃・保証金が安いかどうかということではない。安いに越したことはないが、いくら安くても成功できなければ意味がない。
つまり、その階数が自分の考えている業種業態に適合しているのかどうか、そこを診断しなければならないのだ。あるいは、その階数ならどんな業種業態が成り立つかという発想で判断する必要がある。
また、別項で詳しく説明したが、居抜き物件の場合はカラ店舗と違って、譲渡される内装や設備機器類(厨房関係、空調関係など)が再利用できるのかどうかということも、入念にチェツクしなければならない。業種業態あるいはメニューの違いなどで使えないというのでは困る。
したがって、立地調査ではたんなる場所(平面として2立地)だけでなく、タテの立地条件も含めて、物件そのものと業種業態との相性を的確に判断する必要があるわけだ。
さらに、もうひとつ注意しておきたいのは、物件の使い勝手である。店舗面積が適正規模かどうかということはもちろんとして、店内の形状や間国の広さなども重要なポイントになる。
たとえば、正方形に近い店舗と細長い店舗、あるいは奥でカギ型に折れている店舗では、席の取り方が違ってくるばかりではない。厨房のレイアウトによっては、オープンキツチンにできないなどの支障が出てくることがある。オープンキツチンは席数を取りやすいため小さなお店で採用するケースが増えているが、効用はそれだけではない。臨場感のある調理による演出とかサービス動線の短縮化なども図れるのだ。
その他、看板やサンプルケースについての条件や、ガス・水道。電気の容量、そして食材の搬入やゴミ出しなどの条件についても、キメ細かく確認する必要がある。
ここで、タテの立地条件について説明しておこう。
同じビルのなかでも、 一階、三階、地下の物件の店舗適性はかなり違い、通常の評価では、 一階は一等地、三階と地下は二等地となる。なぜなら、親客のお店へのアプローチの条件がまったく異なるからである。これを「立地内立地」という。
まず一階の路面店舗の場合、アプローチの距離はゼロに等しい。そのため、フリ客でも抵抗なく入りやすいという特長がある。また、遠くからでも見える。目立ちやすいといったメリットもある。
この条件で比較すると、二階と地下は一階に比べて明らかに不利になる。三階の場合は階段を上がらなければいけないという抵抗感があるし、道路からは目立ちにくい。階段を降りる地下の場合は上がる
よりも楽だが、アプローチの距離感は出てしまうし、三階と同様にお店は目立ちにくい。ただし、階段については、角度や幅の違いで評価は変わってくる。また、エレベーターの有無も大きく影響する。
ところで、これらの評価はあくまで一般論でしかない。ここが大事なところである。たしかに、 一階路面の店舗は、ほとんどすべての業種業態にとって好立地である。しかし、飲食店は必ずしも一階路面でなければならないというわけではない。 一階が必須条件になるのは、ファーストフードショップなど日常的利用動機をターゲットにする業種業態の場合だけなのだ。
また、見方を変えると、三階には道路の喧躁から隔離されるというメリットがあるし、地下には隠れ家的な雰囲気を演出しやすいという特長がある。