客席ホールはお客様の目に直接触れる部分である。したがって、居抜き店舗の場合は外観と同様に、「新しいお店」がオープンしたということを明確にアピールしなければならないわけだが、改装のポイントは次の二つである。
・できるだけお金をかけずにイメージチェンジする
・できるだけお金をかけずに居心地感をよくする
どちらのテーマも、できるだけお金をかけないということが大前提だが、これは言い替えれば、できるだけ内装業者に依頼しないで済ませるということになる。要するにアイデアの勝負ということだ。
まずイメージチェンジだが、思い切って店内の色(カラー)を全面的に変えるという方法がある。たとえば、奥に長い四角形の店舗で、入日から奥に向かってカギ型のオープンキツチンのカウンターになっていたとしよう。床は板張りで、壁と天丼は明るいベージュ系である。
そこで、店内の構造は変えずに、床、壁、天丼をすべて真っ黒のペンキで塗つてしまい、カウンターの天板の交換だけを業者に依頼するというわけだ。ペンキを塗っても、照明の照度が低い業態なら、多少の塗リムラやデコボコなどはデザインのひとつに見えてしまうものだ。
壁紙を張り替えたり、天丼に和紙を張ったりするのもひとつの方法だが、カーテンの色を変えるなど、店内のポイントとなる部分の色使いを変えるだけでも、インパクトは持てるということを指摘しておきたい。
一方、居心地感ということではまず、イスやテーブルをそのまま流用すべきかどうかという判断があるが、同時に、客席レイアウトの見直しも大切になる。
本来、客席レイアウトでもっとも重要なことは、必要な席数を確保することだ。必要というのは、売上計画を実現するために必要な席数という意味である。なにしろ、飲食店の売上高は「客単価×客数」で決まるのだ。
しかし、席数の確保にばかり目が行ってしまうと、肝心の居心地感のよさがおろそかになってしまう。イスやテーブルを詰め込んでいたら、お客様にとっては狭苦しいだけで居心地感どころではなくなってしまう。
また、店内の形や規模によっては、客席がサービスの動線を邪魔して、非常に使いにくいホールになってしまうことも多い。といって、席数を減らせば、客数も制約される。つまり、席数の確保と居心地感の確保という二つのテーマのどの辺で折り合いをつけるかが、客席レイアウトの基本になるわけだ。
ただし、席数はただ多く取ればいいというものではない。客席は実際に稼働してはじめて意味を持つ。お客様が座ってくれない客席は、実質的には客席ではないのである。
お客様に利用されない客席を「死に席」と呼ぶ。無理して四〇席を確保しても、 一〇席が死んでいたら実質的には三〇席と同じことだ。しかも、最初から三〇席でレイアウトした場合に比べて、居心地感ははるかに劣る。
大事なのはここである。お客様の立場に立って「生きた」席をできるだけ確保するという視点が不可欠なわけだ。前のお店の客席レイアウトでは席数が多すぎるのなら、新たに居心地感を考えたレイアウトに変更して席数を削る必要がある。店内の形状によっては、店内中央などに大テーブルを置くのも効果的だ。
また、カウンターの天板が古くて傷が目立つようなら張り替えることになるが、その場合はカウンターの下にバツグなどが置ける棚をつくること。これをしないから、イスが荷物置き場になってしまい、「死に席」が増えるのである。カウンターではイスとイスの間の距離も大事なポイントで、あまりくっつきすぎているとお客様が座りたがらない。
なお、少しでも内装業者に依頼するのであれば、壁際や窓などに、花瓶などを置けるスペースをつくつてもらうといい。工事としては簡単なものだが、花や小物を飾るのは効果的なイメージチェンジの方法である。
そのほか、アンティークの家具とか変わった置き物を飾る、布や和紙などでアート的な雰囲気づくりをするなど、アイデア次第でやり方はたくさんある。ヒントは自宅の装飾である。同じ家でも、ちょっとしたことで雰囲気はかなり変わるというのは、だれでも経験しているはずだ。自分のセンスの発表の場というくらいの気持ちを持つことだ。