接客サービスでもっとも大事なことは、すべてのスタッフに「お客様あってのお店」ということを徹底的に理解させることである。
すべてのスタッフとわざわざいつたのは、この「おもてなし」の精神はサービススタッフだけでなく、調理スタッフにも徹底させなければならないからだ。おもてなし精神の欠けたスタッフが調理を担当して、お客様を納得させ、さらに感動させる商品を提供できるはずがない。もちろん経営者も含めて、お店の全員がお客様に対するおもてなし精神を発揮してこそ、揺るぎないお客様の支持を得ることができるのだ。
さて、お客様と直接接するのは、接客サービスを担当するサービススタッフだ。だからなおさら、おもてなし精神を徹底させることが不可欠になる。おもてなし精神とは、お客様に楽しく快適な時間を過ごしてもらうために、いろいろと配慮する心である。この心なくして、お客様に本当に満足してもらうことはできない。
ところで、接客サービスをお客様を感動させるレベルにまでもっていくには、サービススタッフにもうひとつ大切なことを理解させる必要がある。それは、サービススタッフは全員が「お店の顔」なのだということだ。飲食店ではサービススタッフの一人ひとりが、「お店の代表」としてお客様に接しているのである。
たとえば、五人のサービススタッフがいるとしよう。そのなかの一人が、ぞんざいな応対をしてお客様の気分を害してしまったとする。経営者はそのスタッフを叱れば済むのだろうか。答えは「ノー」である。
たったひとりの失敗や問題行動であっても、それは当人の責任ということでは済まない。それが飲食店なのだ。なぜなら、気分を害してしまったお客様の評価は、担当したスタッフ個人に対するもので終わらないからだ。「あのお店はなんて感じが悪いんだ」というように、お店全体への評価になってしまうのである。
こういうことは回コミですぐに広まるものだが、その時、「あのお店のだれだれというスタッフが……」などという人はめったにいない。ふつうは「あのお店」とひとくくりにしてしまう。
人間だれしも、ほんの一部を見ただけで全体を決めつけてしまう傾向があるものだ。ましてや、飲食店ではお金を払っているという意識がある。そのため、この傾向はより顕著になってしまいやすい。初めて来店したお客様の場合、お店に関する情報はほとんどないに等しいのだが、それでも、たまたま対応したスタッフの印象だけで、お店全体のサービスレベルを判断してしまうのである。
ひとりのサービススタッフは五人いるスタッフの一人にすぎない。しかし、 一人の責任は全体の五分の一ということにはならない。 一人ひとりが接客サービスの全責任を負って仕事をしているのだ。飲食店における「おもてなし」とはこういうことなのだということを、サービススタッフ全員に理解させなければならないのである。
そこで大事になるのが、スタツフ全員がつねに同じレベルで接客できるようになる、ということだ。一般の飲食店の接客サービスは、それほどむずかしい仕事ではない。また、サービスのスタイルも、どのお店でも大差ないといっていいだろう。基本は、正しい挨拶の仕方、明るい笑顔とはっきりとした発声、キビキビとした軽快な動作などで、ちょつと訓練すればだれでもできる仕事である。
しかし、お客様の立場で見てみると、こんな簡単な仕事をしているはずなのに、お店によつてスタツフの印象がまるで違ったりする。気分のいいお店と悪いお店とにはっきりと分かれてしまう。なぜなのか。要するに、スタッフに「おもてなしの心」があるかないかの違いなのである。
もちろん、スタッフ全員が感じが悪いお店というのはそうはないだろう。しかし、たった一人でも心がけの悪いスタッフがいてそのスタッフに当たってしまつたら、あなたはどう思うだろうか。運が悪かったで済ませるだろうか。それとも、まつたくひどいお店だと憤慨するだろうか。よく考えてみてほしいところだ。
スタッフにおもてなしの心と責任感をしつかりと植えつけるには、たんなる作業の訓練だけでなく、飲食店スタッフとしての心構えをきちんと教育するしかない。ここで手抜きをしないことが、よいサービスヘの第一歩なのである。