飲食店というのは、お金をかければお客様が来てくれるというものではない。そもそも高級店ならともかく、 一般の小さなお店に、お客様は「本物」の内装や調度類など期待していない。
お客様にとって「いいお店」とは、感じがいいお店である。気分よくすごせればいいわけで、いくら投資したということにはあまり興味をもたないものだ。逆に言えば、お金をかけたくなるのは、ビジネスのためではなく、経営者の自己満足であることが多い。
とくに、はじめてオープンする人は、この傾向が強い。要するにマイホームと同じ感覚で、できるだけ満足のいくものを、と考えてしまうのだ。しかし、お店はあくまでビジネスの場である。必要な投資をすればいいのである。この発想の切り替えができなければ、できるだけ安くつくるということは不可能といっていい。
さて、最も安くお店をつくる方法は、手頃な居抜き店舗を活用することだ。機器類から什器備品類はもちろんだが、食器まで揃っていれば、新しく買うものはほとんどない。
通常はカラ店舗を借りてオープンすることになるが、安くつくるには、まず知恵を使うこと。そして、すべてをビジネスと割り切って合理的に考えることだ。
一般に、客席ホールの内装にお金をかけすぎてしまうのは、いまも言ったようにマイホーム感覚が強いためだが、これはできるだけ長くもたせたいという発想でもある。そのため、つい「いい材料」に目が行ってしまうのである。お客様をもてなす場だから、という思いもあるだろう。
しかし、お店づくりは材料で決まるわけではない。大事なのはデザインというより、むしろ演出だ。お客様が求めているのは、他のお店と違って楽しく、くつろげ、豊かな気分になれる、そんな演出なのである。
雰囲気の演出とは、イメージのふくらみをもたせることだ、たとえば、外国のレストランをテーマにするのなら、その国の素朴な民芸品が2つ、3つ、ポイントとしてあれば十分。あとは、壁紙やカーテンなどで
雰囲気を盛り上げる工夫をすればいい。また、生花をさした一輪挿しひとつで、雰囲気はがらりと変わる。
要はセンスの問題である。
厨房関係ではズバリ言って、中古品を上手に利用することだ。中古品といっても、いまは昔とはまったく違う。ちょっと使っただけの、まだまだ使える機器類がたくさん出回っている。
ものによっては多少の汚れが気になるかもしれないが、たとえ新品を買ったとしても、いずれは汚れてしまうものだ。中古品でも、丹念に磨き上げれば、かなりきれいになる。せっかく念願のお店をつくるのだから、ピカピカの新品を使いたいという気持ちは理解できるが、安く上げたいのなら気持ちの切り替えが必要だ。
お店はビジネスの場といったが、内装や機器類は自己満足のためのものではない。飲食店としての付加価値を生み出すための道具にすぎない。自分のお店を愛することは大切だが、趣味ではないのである。そういう発想がきちんとできれば、お金をかけるべきところとかけないでいい部分の区別がわかってくるはずである。