飲食店経営はビジネスだ。したがって、お客様に支持されるのは「たまたまそうなった」ではなく、「必然の結果」でなければならない。つまり、コンセプトとはひと言でいえば、確実にお客様に支持されるためのお店づくりのプランを確立することである。
飲食業の世界では、このコンセプトという言葉がよく使われている。ところが、言葉だけがひとり歩きしていて、コンセプトの意味がよく理解されていないケースが非常に多い。たんなるイメージとしてしかとらえていないのだ。たとえば、地中海沿岸のビーチリゾートのような明るくリッチな雰囲気のお店とか、日本の伝統文化に触れながらお酒をゆったりと楽しめるお店、といった具合である。
これらの例がどうして「コンセプト」になっていないのかというと、これでは実際の営業方針は立てられないからだ。唯一できることは店舗をつくることだけだが、それとて大きな問題がある。たとえば、厨房の広さや規模はどうするのか。店舗デザインだけなら、デザイナーに依頼すれば簡単に出来上がる。
しかし、売り方の方針が決まらないのに厨房をつくるわけにはいかない。厨房というのは、メニューの種類の多少や調理工程の内容によって、必要な広さも機能も変わってくるからだ。
お店のイメージを決めるのはいい。しかし、同時に、そのイメージのなかでどういう売り方をするのかということを、きちんと詰めていかなければならない。それがコンセプトづくりなのである。
客層はどの辺に照準を当てるのか。どういう利用動機を取り込むのか。お客様の利用頻度はどのくらいと想定するのか。メニューの品目数はどれくらいにするのか。そのメニューで、昼と夜の客単価をいくらに設定するか。お客様のオーダーの仕方はどうか。お客様の滞席時間はどのくらいか。
こういうことをいちいち細かく煮詰めていってはじめて、お店の営業方針が決定されるのである。ところが、お店をイメージだけで考えても、これらの要素は何ひとつ決めることができない。要するに、確固とした方針のないままにお店をオープンするということになってしまう。
飲食店の営業方針とは、お客様に対する具体的な対応態勢である。たとえば、メニュー数を増やす。それはいい。しかし、そのためにはお客様のオーダーがばらついたとしても対応できる厨房とサービスのシステムを確立しておかなければならない。
先に客単価を想定するといったが、これは自分本位の期待値であってはならない。お客様のオーダーの仕方という視点から想定されていなければならないのだ。ディナータイムであれば、ドリンクを何杯飲むかということも想定しなければいけないのである。
こういうお客様にこういう利用の仕方をしてもらいたい。そのアピールが明快だからこそ、狙いどおりのお客様が来てくれるのだ。そのための基本プラン、それがコンセプトなのだ。繰り返すが、お店づくりはイメージだけではできないのである。