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第5章「商品」の常識編

飲食店でのオリジナルメニューは五感への総合アピールで勝負

オリジナルメニューと聞いて、どんな料理を思い浮かべるだろうか。どこの国の料理かわからないような、奇妙キテレツな料理だろうか。いや、そんなことはないだろう。

たいていの人が思い浮かべるのは、それほど「変わった」料理ではないはずだ。たとえば、ラーメンならスープや麺、チャーシューに凝っているといったことくらいではないだろうか。しかし、それこそが個性なのだ。常識的な料理に何か光る工夫がほどこしてある商品。それがオリジナルメニューである。

たとえば、いまは定番のメニューになっている和風スパゲッティーも、商品化されたときは大きな驚きをもって迎えられたものだった。なぜ驚かれたのか。洋のメニューであるスパゲッティーに和の素材を使うという発想が飛び抜けていたからである。まさに常識をくつがえす工夫だったわけだ。

いまのお客様は外食に慣れているため、ありきたりの商品では満足してくれない。そこでオリジナルメニューが求められるわけだ。しかし、誤解してはいけないのは、お客様は見たこともないような珍味を求めているわけではないということだ。

食というのは基本的に保守的なものである。お客様に広く支持してもらうには、個性と同時に、安心感がなければならない。安心感のある料理とは、自分が知っている料理の範囲内、あるいは延長線上にある料理である。

つまり、ベースはあくまで、前からある料理でいいということだ。そこに独自の工夫を加えることで個性が生まれる。しかも、より大きなヒツトにするには、よリポピュラーなメニューのほうが適している。オリジナルラーメンが次々に進化をとげてブームを維持しているのは、ベースがだれでも知っているラーメンだからなのである。

前置きが少し長くなったが、オリジナルメニューを開発するには、まずこういう意識をしっかりともつことが大切だ。開発したくてもできないというのは、要するにむずかしく考えすぎているからなのだ。もっと単純な、身近なところで、発想の面白さを追求してみるべきである。

次に、オリジナルメニューの開発手法を具体的に挙げてみよう。
①盛りつけを工夫する
②調味料やスパイス類の種類や配合の仕方を工夫する
③食材の組み合わせを変えてみる
④調理法、または調理法の組み合わせを変えてみる
⑤独自の食材を使用する⑤独自の食材を使用する

こうして見ると、オリジナルといっても、そんなにむずかしいことではないということが実感できるはずだ。

さて、この開発手法は、①から⑤に向かうほどお客様に対するアピールカが強くなるが、同時に、技術的な難易度も高くなる。たとえば、①の盛りつけの工夫など、努力しているお店が少ないだけで、実際にはだれでもできることだ。少なくとも、③までの段階なら、すぐにでも実践可能な手法である。

また、商品開発といっても、調理技術を競うコンテストに出場するわけではない。技術はもちろん大切だが、お客様へのアピールということでは、むしろ発想の仕方、アイデアがものをいうことが多いものだ。

たとえば、炒める調理を煮る、焼く調理に変えてみるというのは、とくに高度な調理技術がなくてもできることだが、これは④の手法である。言い替えれば、いまある料理をアレンジするアイデアが開発の基本になるということだ。

こういう発想の仕方を武器にするのに私がおすすめしているのが、人間の五感をヒントにする開発だ。言うまでもなく五感とは、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の5つの感覚のことである。

料理というと、どうしても味の面ばかりがクローズアツプされがちだ。おいしさ第一主義である。もちろん、おいしさは絶対に必要だ。しかし、お客様はそれだけで満足するとは限らない。レジャーとしての外食ではむしろ、おいしく、しかも楽しい、面白い料理が求められている。

たとえば、自分の手で巻いて食べさせる生春巻きは、触覚へのアピールで楽しさを表現している。時代にかかわらず焼肉の人気が高いのは、ジュージューと肉の焼けるシズル感やにおいが、お客様の視覚、聴覚、嗅覚にアピールするためだ。春巻きにしろ焼肉にしろ、調理師が作って提供したほうが味としてはおいしいかもしれない。しかし、お客様にとっては、自分で調理するという感覚のほうが満足感を味わえるわけだ。

オリジナルメニューの開発で大事なのは、料理でございますなどと生真面目に考えすぎないことだ。遊び心を生かすことである。アイデアというのは、正攻法からは生まれにくい。ちょっとした思いつきが大ヒットを生むものなのである。

飲食店にとってのオリジナリティーを追求とは?

飲食店の商品の魅力は付加価値にあるが、この付加価値を言い替えれば、他店との違いということになる。要するに、お客様に「あのお店でしか食べられない」と思わせる商品である。そう思うからこそ、お客様は目当てのお店までわざわざ食べに行く。これが繁盛店のパワーである。

他のお店では食べられない、そのお店ならではの商品。お客様が本当に求めているのは、そういう明確なオリジナリティーのある商品である。お客様にとって、どこのお店でも大差がないようなありきたりの商品では、わざわざ出かける必要はない。いつまでたっても繁盛できないお店とは、お客様にそう思われているお店なのである。

もう一度言おう。あのお店でしか食べられない。これこそが、本来あるべき飲食店の商品の付加価値である。だから、お店の存在感を強烈にアピールする。飲食業の成功は、飲食店の最も大きな付加価値である商品の、オリジナリティーの追求から始まるのだ。

たとえば、ブームと熾烈な競争が続くラーメンを考えてみよう。ラーメンは最もポピュラーなメニューのひとつだ。だから、ラーメン店ならいくらでもある。しかし、本当に繁盛しているのは、ほんのひと握りのお店だけである。

どうしてこれほどの差がつくのかといえば、繁盛できない大半のお店のラーメンには個性がないからだ。わざわざ食べに行く価値がないと思われているから、繁盛できない。一方、繁盛ラーメン店のラーメンには、だれの目にも明らかな個性がある。そして、お客様は他のお店では食べられない、個性の強烈なラーメンを食べたいと思っている。それだけのことなのである。

実はポピュラーなメニューほど商品の個性がモノをいうのだ。なぜなら、ポピュラーメニューとは、だれもがふだんから食べる機会が多く、よく知っているメニューだからである。たとえば、ろくに食べたこともないようなフランス料理の話だとしたら、オリジナリティーが云々といわれても、たいていの人はピンとこないだろう。比較のしようがないからだ。

しかし、ふだんから食べなれているメニューなら、自分の好みもはっきりしている。だから、違いがひと日でわかるし、自分の評価もはっきりする。自分の好みに合うから、何度でも食べたくなるわけだ。

ラーメン店の場合は、ほとんどが単品商売だから、オリジナルラーメンだけで勝負することができるが、一般の飲食店の場合はそうはいかない。お客様の多様なニーズに応えるには、ある程度の品揃えが必要だ。

しかし、品揃えの中のわずか1品目だけでもいいのだ。魅力あるオリジナル商品があれば、それが看板商品となってお客様を引き寄せるパワーとなる。その1品だけで、お客様は支持してくれるものだ。

いまは飲食店の数が非常に多い。しかし、本当にそのお店だけの個性を打ち出しているお店は少ない。そして、お客様は外食に慣れているから、昔のように「並」のお店では満足できなくなっている。飲食店の情報はいくらでもあるわけだし、アンテナを張り巡らせてつねに「いいお店」を探している。その結果として、ひと握りの繁盛店にお客様が集中するようになっているのである。

こういう現状をよく考えれば、オリジナルメニューの開発がいかに大切なテーマであるかがよくわかるはずだ。飲食店の経営者であればだれでも、他店との差別化を図りたいと考えているだろう。個性が大切なことくらいはわかつているはずである。ところが、行動が伴わない。たしかに、人間、頭ではわかっていてもなかなか体が動かないものだ。しかし、そんな言い訳をしていても始まらない。成功したければ、オリジナルメニューの開発努力をするしかないのである。

オリジナリティーなどというと、すぐに自分には無理と諦めてしまう人がいるが、そんなことはない。調理技術に自信がないのなら、それなりの方法でやればいい。その方法については次項で説明しよう。大事なのは、自店だけのオリジナリティーを追求するのだという強い気持ちである。

ちなみに、オリジナルメニューは利益を確保しやすい商品でもある。なぜなら、オリジナルメニューの付加価値は、まさにそのオリジナリテイーにあるからだ。

たとえば、ラーメンといえども価格にはかなりの差があるが、安いから人気というわけではない。他店とはまったく違う商品であれば、お客様は比較のしようがないのである。

一般に、商品の魅力を高める方法は原価をかけることと思われているが、原価をかければ当然、利益は少なくなる。薄利多売というわけだが、 一般の小さなお店でそんなにたくさん売れるわけもない。これが、そこそこ売れても儲からないというジレンマだ。

しかし、オリジナリティーという魅力があれば、ことさらに原価をかける必要はない。つまり、オリジナルメニューとは、適正な利益を確保しやすい商品でもあるわけだ。

お客様の飲食店利用ニーズを見極める

ひと口に飲食店といっても、実にさまざまなお店がある。どの業種業態のお店をやろうと、それは経営者の自由である。しかし、成功しやすいかどうかとなると、話は別だ。なぜなら、立地によってお客様のニーズが違ってくるからである。

たとえば、都心で繁盛しているカフェやレストランのコピーを、そのまま地方の小さな町に持って行って失敗するというケースがよくある。失敗して当然だ。そういうお店に対するニーズがほとんどない立地で、成功できるはずがないのである。

お客様とお店の関係は、つねに需要と供給の関係にある。いくら供給しようとしても、それに対する需要がなければ売れないということだ。経営者の思い込みは、飲食店の最も陥りやすい落とし穴である。この商品は絶対においしい、すばらしい、だから絶対に売れると思い込む。こういう経営者はいくらでもいるものだ。だから、売れないお店が多いということになる。

自店の商品に自信をもつことはすばらしいことだ。事実おいしいのかもしれない。しかし、飲食店の商品である以上は、売れなければ意味がない。逆に言えば、食べたいと思ってくれるお客様がいない商品など、自己満足以外の何の意味もないということなのだ。

おいしいから絶対に売れるという思い込みは、技術に自信のある調理師出身の経営者によく見られる傾向だが、最悪なのは、お客様が入らないのは自分のつくる料理のよさがわからないからだと思ってしまうケースだ。お客様を馬鹿にしているつもりで、実は自分で自分の首を締めているだけなのである。

本来、飲食店の商品とは、つねにお客様のニーズは何かを追求した結果でなければならない。この追求がおろそかだと、いくらいいお店を作っても成功できない。なぜなら、経営者にとっては「いいお店」であっても、お客様にとってはただの必要のないお店でしかないからだ。

お客様は、自分の要求を満たしてくれるお店しか利用しない。だからお店を選ぶのである。それなら、どんな商品が求められているのか、飲食店はもっと真剣に考えなければいけないはずだ。

お客様のニーズは立地によって変わる。また、客層によっても違ってくる。したがって、商品づくりに当たってはまず、商圏内にどんなニーズがあるのかを的確につかむ必要がある。オープン準備のときに商圏調査をしなければいけないのはそのためだ。

立地条件は、単純に商圏内人口が多ければいいということではない。自分の考えているお店がこの立地で成り立つのかどうか。つまり、自店の商品を支持してくれるお客様(客層)が十分に見込めるのかどうかということ。大事なのはそこである。

だから、商圏内の競合店調査も重要になるわけだ。競合店とは、自店と同業態のお店のことだが、競合店が何店か繁盛しているようなら、少なくとも自店のターゲットとするニーズは十分に存在していることになる。

ただし、競合店が繁盛していれば自店も繁盛できるということではない。それはニーズがあるという証明でしかない。繁盛を引き寄せるのは、そのニーズに合致した強力な商品力なのである。

商品力=継続繁盛力、飲食店の生き残りはメニューが決める

当たり前のことだが、飲食店の看板は商品である。もちろん、飲食店の価値は商品だけでなく、サービス、雰囲気も合わせたトータルな付加価値で決まる。しかし、第一の売り物はあくまで商品なのだ。

ところが、多くの飲食店はこのことがまるでわかっていない。どうしてそう言えるのかといえば、理由は簡単だ。多くのお店が、自店の商品力のなさを何とも思っていないからである。何の魅力もない商品を漫然と売っているだけだ。

なるほど、そういうお店に言わせれば、メニュー表にのせていれば、それがうちの商品、売り物だ、ということになるのだろう。しかし、お店側の自己満足や弁解など、それこそ何の役にも立たない。飲食店として営業している以上、お客様に認めてもらえなければ意味がない。お客様が魅力ある商品と感じてくれなければ、商品価値はゼロに等しい。当たり前のことである。

また、たしかにいまのお客様は、たんに空腹を満たすだけの目的で飲食店を利用しているわけではない。

お客様の本当の目的は、食事を通して豊かで楽しい時間をすごすことだ。つまり、外食のレジャー化である。

だからこそ、商品ばかりでなく接客サービスや雰囲気のレベルアップが不可欠なわけだ。しかし、それでもお客様を納得させる最大の不可価値は商品なのである。料理に魅力があるからこそ、そのお店での食事が楽しくなるし、豊かな気分も味わえる。逆に、料理がまずかったらどうか。どんなにサービス態度がよくて雰囲気も立派だったとしても、満足感は得られない。

よく「料理さえよければもっといいお店なのにね」というお客様の話を耳にすることがあると思うが、そういうお店が繁盛できたためしはない。カフェなど流行のスタイルのお店で一時的に繁盛できたとしても、結局は長続きしない。

いまは昔と違って、そこそこおいしいことなど当たり前の時代である。一定レベル以上の味であることは、飲食店としての最低の条件と思われている。だれがそう思っているのかというと、お客様である。

もうひとつ、商品力とはたんなる味だけの問題ではないということを、しっかりと理解してほしい。要するに価格である。

お値打ち感というのは、味と価格のバランスがとれていてはじめて成り立つ価値だ。こんなにおいしいのに、こんなに安い。これが究極のお値打ちである。そして、多くのお客様に支持してもらうためには、多くのお客様が買いやすい価格に設定することが鉄則だ。

いくらおいしいという自信があっても、お客様に高いと思われたら利用してもらえない。つまり、同業態の他店と比較してどうかということも、考慮に入れなければならないわけだ。味と価格。この2つの面で他店との競争力をもってはじめて、商品力があるといえるのである。

繰り返すが、飲食店の看板はあくまで商品である。商品あっての飲食店なのだ。適正な価格で、お客様に「あのお店でしか食べられない」と思わせるパワーをもつことが、繁盛の最大の武器なのである。飲食店で成功したいと思うのなら、何よりもまず商品力をつける努力を惜しまないことだ。

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著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。