別項でオリジナルメニューを開発するための五つの手法を紹介したがもう一度読んでほしい。五つの段階の五番目、つまりお客様に対するアピール効果がもっとも高い手法が「独自の食材を使用する」だった。
その理由は単純だ。ほかの四つの手法は、他店がその気になれば簡単にマネをすることができる。どこかのお店のヒット商品がまたたく間にあちこちのお店のメニューに登場するというのは、この業界ではよくある話である。ところが、新しい、つまり変わった、特殊な食材を使っている場合はそうはいかない。同じ食材を手に入れない限り、完全なマネをすることはできない。
つまり、新しい食材を使用しているというそのことだけで、他店との強力な差別化を実現できるわけだ。これに新しい独自の工夫が加われば、まさに鬼に金棒。ほかのお店では絶対に食べられない商品が出来上がる。だったら、もつと積極的に、新しい食材を探す努力をすべきだろう。
本来、料理というのは材料が基本である。どんな材料を使うのかによって、料理の価値のかなりの部分が決まってしまう。これは高級料理とか廉価な料理ということにはまったく関係ない。どんな材料を使うかで、料理の付加価値はまったく違ったものになる。いわば料理の宿命だ。
したがって、商品力をつけようと思うなら、まず第一に材料に着目しなければならない。アイデアや工夫も大事だが、それ以前の問題として、材料を吟味するということの大切さを学ぶ必要がある。
あらゆるジャンルの飲食店があり、そのなかで外食に慣れたいまのお客様は、どんどん変わった料理、ふつうとは違う味わい、そして新鮮な驚きを求めるようになっている。衰えを知らないラーメンブームなど、まさにその典型だ。ラーメンという極めてシンプルな料理ジャンルで、あの手この手のオリジナリテイー合戦が行われている。
そこでオリジナルメニューの重要性に戻るわけだが、最強のオリジナリティーを実現するのは食材である。それなら、料理の基本に立ち返って、食材の独自性を徹底的に追求してみることだ。他店の使っていない食材の仕入れルートを探し出すだけで、他店にはマネのできない付加価値を生み出せるのだ。
ただし、これは口でいうほど簡単なことではない。どれくらい努力したらどれくらいの成果が上がるといった次元の問題ではないからだ。はつきりいって、 一生懸命に探し続けてもなかなか見つからないかもしれないし、旅行した時に偶然見つかるかもしれない。
そんな結果もわからないようなことに貴重な時間やお金を費やすわけなはいかない。あなたはそう思うだろうか。実は、ほとんどの飲食店の経営者はそう思っている。だから、大半のお店の商品は似たり寄ったりで、差別化など夢のまた夢の話になってしまっているわけだ。ここをよく考えてみてほしい。
そもそも、ちょっと努力しただけでうまくいくなどという考え方自体が甘い。この競争原理の世の中で、そんなことが通用するのだろうか。それが無理なことくらい、子どもでも知っている。本当に成功したいのなら、成功を揺るぎないものにして、さらに成長させていきたいと本気で思うのなら、できる努力を惜しむべきではない。可能性があるのなら、そこに懸けてみる意気込みこそが、本当の成功を呼び込むのである。
だから、仕入れルートの探索といっても、何も慌てることはない。気晴らしの旅行のついでに、その地方ならではの面白い野菜や魚を探してみる。なければそれでいい。なにしろ、産地に直接足を運ぶことになるのだから、当然、そのための時間と費用がかかるのだ。それくらいの割り切りがなければ長続きしないし、そういう軽い感覚で探すほうが、掘り出し物にぶつかることもある。
たとえば、野菜や魚介類の場合、各地方にはたいてい、それぞれの地場消費ものと呼ばれる食材があるものだ。生産量が少ないために東京などに出荷されることなく、地場だけで流通している食材である。
また、大きさや形などが規格外のために地場消費に回されるということもよくあるが、こういう食材は規格品だとけっこういいものとして扱われていたりする。これも狙い目だ。
なお、生鮮品ばかりでなく、加工品や半加工品にも同じことがいえる。そのなかで新しい食材を探すことも、大事な差別化手法のひとつである。