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前のお店の業種業態を生かすには

居抜き店舗の活用でもっとも手間がかからないのは、前のお店と同じ業種業態のお店にすることだ。これなら、かりに古くなっている内装などに多少手を入れるとしても、イスやテーブルといった什器備品類はもちろんのこと、厨房の設備機器類もほぼそのまま流用することができる。もっとも安上がりにできるオープンである。

実は、このやり方で繁盛している事例はたくさんある。なかには、前のお店と同じ店名で、看板も流用しているというケースさえある。こういうお店では、すぐには経営者が変わったと気づかないお客様がけっこういたりする。

ただし、この方法で確実に成功できるのは、前のお店がそれなりの繁盛店だった場合である。つまり、その立地には、この業種業態のお店に対するニーズが十分にあり、一則のお店は的確にそのニーズをすくい上げていたわけだ。だから、同じ価格帯で同じような付加価値を提供できれば、従来の顧客に支持してもらいやすい。要するに、一削のお店の店舗だけでなく、お客様の持っているプラスのイメージをも活用してしまおうということだ。そういう確かな見通しの元にお店づくりをすれば、成功の確率は高いといえる。

一方、業種業態は前のお店と同じだが、商品の内容やお店の雰囲気をガラリと変えるというやり方もある。ただ、このやり方の場合は、前のお店との違いを強調しているだけに、似たようなお店にする場合と比べて前のお店との比較をされやすい。

といっても、このことは別にマイナスになるわけではない。要は、その比較の結果、新しいお店のほうが価値があると思ってもらえればいいわけだ。たとえば、前のお店がとくに繁盛できなかつた場合など、このやり方のほうがはるかに適しているといえる。

お客様というのはつねに、新しいもの、新鮮に感じるものを求めているものだ。よく近所に新しいお店がオープンしたら、そちらにお客様を取られてしまつたという経営者の話を聞くが、それはまさにお客様の行動パターンなのだ。もっとも、本当に実力のあるお店なら、その時はちょつと浮気されたとしても、お客様はいずれまた戻ってきてくれるのだが。

いずれにしろ、前のお店の業種業態を生かすには、その業種業態のニーズが十分に見込めるということが絶対条件になる。この節では、前のお店が繁盛店だったケースと、そうでなかったケースの違いを取り上げたが、後者の場合では、その業種業態に対するニーズがあまり見込めなければ、同じ業種業態にこだわる意味はないのである。

居抜き店舗は、前の経営者がつくった店舗を活用できるところに魅力がある。したがつて、そのメリットを追求していけば当然、同業種同業態でのオープンということになるわけだが、それが可能かどうかの見極めが非常に重要な要素となる。

逆にいえば、いちばんいけないのは、たまたま見つけた物件の業種業態に安易に合わせてしまうことである。コンセプトなくして成功はないと肝に銘じておこう。

その立地に合ったお店づくりが成功のスタート

昔から、飲食店は立地で決まるといわれる。もちろんこれは、いまも生き続けているセオリーだ。しかし、誤解してはいけないのは、このセオリーの意味するところは、単純に立地さえよければ成功できるということではない、ということだ。

たしかに、飲食店にとって立地は非常に重要な要素である。しかし、どんなに「いい立地」に出店したとしても、その立地のよさを生かせなければ何にもならない。現に、繁華街とか駅前、商店街の中心といった、いわゆる一等地にありながら繁盛できないお店はいくらでもあるではないか。

つまり、このセオリーが語つているのは、成功の秘訣はその立地の特性に合ったお店づくりだ、ということなのである。もちろん「いい立地」が有利なことは確かだが、それよりも立地の生かし方が大切ということだ。

では、立地特性を生かすとはどういうことなのか。それは、その立地のニーズを見極め、そのニーズに応えるお店づくりをすることである。つまり、立地に合ったお店づくりとは、言い替えれば、お客様が求めているお店づくりということになる。

どういう立地にしろ、どんな業種業態のお店にするにしろ、お客様に支持されるお店になるための第一歩は、お客様のニーズを的確に知ることだ。これが飲食店ビジネスの一番の基本である。お客様のニーズとは、お客様が「あってほしい」と求めているお店であり商品である。お客様に求められるお店・商品だからこそお客様は、ほかに飲食店が何店あろうと見向きもせずに支持してくれるのだ。

お客様とお店の関係は、つねに需要と供給の関係にある。需要があるから売れるのであって、需要がなければ売れるはずがない。当たり前のことなのだが、これがなかなか理解できない人がいる。

たとえば、飲食店経営者にありがちなのが、うちはこれだけ手間をかけているとか、こんなにいい材料を使っているとか、流行もしっかり採り入れているといった自負である。もちろん、自信を持つことは大切だ。しかし、いくら自信を持っていても、そのお店づくりがお客様のニーズとズレていたらどうなるだろう。答えは簡単、どんなに頑張っても繁盛できないということになる。本人は納得できないかもしれないが、それがビジネスの現実というものだ。

ここで強調しておきたいのは、経営者にとつていくら「いいお店」であっても、お客様にとって「どうでもいいお店」では、絶対に成功はできないということだ。たとえば、私は本書で、居抜き店舗を活用した超低投資のオープンを薦めているが、読者のなかには、せっかくオープンするのなら新店舗でやりたいと思っている人がいるはずだ。なぜかというと、新店舗いお店などつくれるはずがない、と。

実はその発想が間違いの元なのだ。「いいお店」かどうかは、店舗自体の新しさや古さで決まるものではない。肝心なのは、どんなお店にするのか、つまり、お店づくりの発想と方法論なのである。その発想と方法論があれば、店舗が居抜きでも新店舗でもどちらでもいい。確実に繁盛店をつくれるのである。しかも、居抜き店舗を活用すれば、新店舗の場合よりもはるかに安くオープンできるのだ。どっちが頭のいいやり方なのか、考えるまでもないだろう。

さて、話を戻そう。お客様のニーズは立地によつて変わるものである。当たり前のことだ。繁華街で大繁盛しているからといつて、古い住宅地にそのままの形でオープンしても、繁盛できるはずがない。住宅地にも居酒屋のニーズはあるが、お客様の求めている居酒屋は違う形の居酒屋なのだ。

また、客層やお客様の利用動機によつても変わる。これも当然である。若い人たちをターゲットにしたお店が毎日、中高年客で埋まるなどということはあり得ないし、いくら「安くておいしい」は飲食店の魅力といっても、たまのごちそうなど、ハレの日の食事に使ってもらえるはずがない。

確実に成功するための条件は、一にも二にも「その立地に合ったお店づくり」=「お客様が求めるお店づくり」なのである。この立地ではどんなニーズがあるのか。あるいは、埋もれているのはどういうニーズか。お店づくりは、そこを冷静にみつめることから始まる。それが立地を生かすということなのだ。

保証金・更新料などもしっかりと確認する

店舗の賃貸契約には必ず、保証金(敷金)と契約更新の場合の更新料がつきまとう。借りる側(払う側)としてはできるだけ安いほうがいいわけだが、通常は相場というものがあるし、なかなか思い通りにはいかないものということになっている。たしかにその通りだろう。家主としても、保証金はしっか

しかし、だからといつて、不動産業者のいいなりになってばかりもいられない。とくに保証金は金額が大きいし、更新料にしても長引く不景気のなかで値引きするケースも出てきている。そこで大事になるのが、交渉ということだ。

だれでも、店舗は少しでも安く借りたいと思っているはずだ。しかし、有利な条件に値引きしてもらえる人もいれば、割高な物件を借りてしまう人もいるというのが現実である。どうしてそんな違いが出てしまうのか。要は交渉の差なのである。

これは居抜き店舗でも新店舗でも同じで、まずはどんな契約でも本質は「交渉」なのだということを理解しなければいけない。店舗の契約でも、家賃・保証金の金額から物件自体の条件まで、交渉すべきことはたくさんある。たとえば、居抜き店舗の場合は、家賃・保証金のほかに造作譲渡代金を支払うわけだが、その金額についても交渉するのが本当の筋なのだ。ともかく、不動産業者との交渉では、提示された金額を鵜呑みにしないことが基本である。

ただし、交渉はケンカではないし、無理強いでもない。たとえ一方的に値下げを要求したとしても、それは通らない。お互いに条件や要求を出し合い、粘り強く話し合いながら落としどころを探る。それが交渉というものである。

また、ふつう賃貸契約の交渉は不動産業者との話し合いになるが、できれば家主に会わせてもらうべきである。なぜなら、家主としても早く借り手を探したいというのが本音だからだ。長期間にわたって空きになっている物件の場合はなおさらである。空き店舗のままにしておくよりも、多少値下げしたとしても早く借り手を見つけたほうがトクなわけだし、家主にとってもつとも望ましいのは、きちんと家賃を払ってくれるテナントに入居してもらうことなのだ。

この直接交渉は、前の経営者にもいえることだ。造作譲渡代金は家主ではなく前の経営者に支払う。したがつて、この部分に関しては家主は関係ないわけだ。また、造作譲渡代金は前の経営者にとつては、お店をやめる時のための保険のようなものである。少しでも早く現金化したいというのが本音だろう。

不当な要求ではなく、造作の状態などを客観的に判断したうえでの交渉であれば、相手も聞く耳を持つはずである。いずれにしろ、主導権を握つているのは不動産業者だ。したがって、業者をいかに味方につけるかが、有利な条件を引き出す最大のポイントになる。

造作譲渡代金が妥当かどうか慎重に検討する

ふつうの新店舗を借りる時は、手数料などを除けば、最初にかかるお金は保証金(敷金)だけである。そして、その店舗に自分で内装を施し、設備機器類や什器備品類を揃える。これが通常の飲食店オープンのパターンである。

それに対して、居抜き店舗の場合、保証金や敷金のほかに造作譲渡代金を支払う。保証金や敷金の金額は、新店舗の場合よりもかなり安く設定されているのがふつうだが、造作譲渡代金を支払うと、それなりの金額になる。しかし、それでも内装などの造作を譲り受けるのだから、初期投資の総額としてはかなり安上がりになるというわけだ。

しかし、居抜き店舗もいろいろで、必ずしも安上がりになるとは限らない。もしも厨房設備機器が使い物にならなくて、ほとんどを買い替えたとしたらどうなるのか。空調設備も同様だ。かりに、いまはなんとか使えたとしても、何年もたたないうちにダメになり、買い替えなければならなくなるとしたらどうか。結局、オープン時に支払った造作譲渡代金はムダになってしまうことになる。

もちろん、通常はそんな極端なことにはならないものだが、こういうケースも一応は頭に入れておく必要がある。いずれにしろ、居抜き店舗の金額的評価は、あくまで総合点で決まるものだ。まず立地があり、次に造作がある。その総合評価が高ければ、たとえ造作をそのまま使えないことがあつたとしても、結果的にはプラスになる。つまり安い買い物になる。たとえば、これも極端なケースだが、どうしても「その場所」に出店したい場合、つまり、造作譲渡代金をムダにしてもお釣りが来ると計算できる好立地というのなら、造作譲渡代金は必要な投資として割り切ることもできるわけである。

しかし、居抜き店舗活用の基本はあくまで、譲り受けた造作をできるだけそのまま利用するということだ。となれば、その造作が代金に見合ったものであるかどうか、慎重に見極めなければならない。造作譲渡代金とは言い替えれば、中古の造作を買う代金なのである。買い物をするのに、その価値が対価に見合っているかどうかを検討するのは、当たり前のことにすぎない。

ところが、これは日でいうのは簡単だが、実際にはなかなかむずかしい問題だ。というのも、具体的にその内装や設備機器の代金がいくらが妥当なのか、慣れていない人には正確に判断することなどできないからである。相談できる人がいればいいのだが、ふつうはそんな人はいないだろう。

とにかく、居抜き店舗の活用の最大の目的は、超低投資で繁盛店をつくるということである。それには、物件の価値をできるだけ正確に判断し、余計な出費をできるだけ抑えることに徹しなければいけない。

換気・空調設備等の設置条件を確認する

前節で、設備機器類がきちんと使えるかどうか、また、空調関係の効き目はどうか入念に確認することの大切さについて説明したが、とくに換気・空調関係の設備については、その設置条件が大きな問題になることがよくあるから注意が必要だ。

最近は町の環境保全のために、飲食店に対してもさまざまな規制が設けられていることがよくあるが、換気・空調設備はその最たる例ともいえる。どうしてかというと、飲食店の換気・空調というのは、外の立場から見れば、イヤな煙や臭いなどの排気でしかないからである。

いわれてみれば当然のことなのだが、人間どうしても、自分中心に考えてしまいがちなところがある。たとえば、焼肉店の場合、お客様の居心地感を考えれば当然、無煙ロースターを採用することになる。大量の油煙が飛び散る中国料理店なら、その油煙をきれいに吐き出さなければお客様はたまったものではない。そのために、換気・空調設備があるといっても過言ではないだろう。

しかし、いうまでもなくいまの時代は、音のように吐き出しっ放しというわけにはいかない。それがまかり通っているお店がたくさんあることも事実だが、地域に密着して地元の人たちから愛されるお店として営業していくためには、そういった環境問題への配慮は不可欠になっているのである。

たとえば、最近は路面一階のお店でも、排気をわざわざビルの外壁にダクトで回して屋上に出すケースが多い。そうしないと、換気一扇から吐き出される煙や臭いが通りばかりでなく、近隣のビルにも多大な迷惑をかけてしまうからだが、この工事には想像以上のお金がかかる。

ところで、居抜き店舗の場合、この問題がクリアになっているかどうか、傍からではわからない。よくあるのが、前の経営者がこの排気の問題で周囲のビルとトラブルを起こしていたのに隠していたというケースだが、そういう物件を知らずに借りてしまうと、思わぬ出費を招くことになる。

また、譲渡される換気・空調設備が不十分なことがわかっていて、新たに設置し直そうと考えていたとしても、問題が生じることがある。ビルの構造上、設置できる設備が制約されてしまうケースである。必要な能力の設備機器を使えなければ、店内の空調がひどい状態になってしまうのは火を見るよりも明らかだろう。

なお、設置条件ということでは、看板についてもきっちりと確認しておく必要がある。看板はお客様にお店の存在を知ってもらい、来店を促すためのものである。その設置条件がいろいろと制約されるのではたまらない。たとえば、マンションの場合は袖看板が付けられなかったりするし、大きさが決まっている場合もある。これもまた、契約後に気づいても後の祭りなのである。

厨房・空調機器がリースなら契約内容を確認する

厨房や空調関係の設備機器類は高額のものが少なくない。そのため、初期投資額を抑える方法として、リース制度を活用するケースがけっこうある。リースにすると、現金で買う場合に比べて金利分が上乗せされるが、五年なら五年間の均等支払いになり、毎月の支払額は小さい。

しかも、減価償却する必要がないうえに、毎月の支払額が全額、損金として計上できるから、税務面から見ても合理的な方法といえる。また、開業資金が思うように集められなかった場合、どうしても必要なら高い金利の融資も利用しなければならなくなるが、その場合も、リースの金利のほうが有利になったりもする。リース制度には、金融的な役割もあるわけだ。

また、設備機器類には当然、保証期間があるが、リースの場合は販売に比べて、この保証態勢もしっかりしていることが多い。販売では、売ってしまえば後は知らんぷりなどということもあり得ないことではないが、リースではメーカー(代理店)もそうはいかない。少なくとも全額支払ってもらえるまでは、顧客(お店)との良好な関係を継続しなければならないからである。したがって、故障した場合はのがぶつうである。

さて、居抜き店舗の設備機器類がリース契約の場合、その設備機器類の持ち主はリース業者であって、お店ではない。簡単にいえば、業者から借りているだけである。居抜きは設備機器もすべて「買い取る」というイメージが強いが、それは前の経営者が設備機器類を買っていた場合である。それに対してリースの場合は、リースしてもらう権利を譲り受けるだけなのだ。

まず、このことをしっかりと認識しておくことが大切だ。なぜなら、もしも契約に違反した場合、その機器類を使用することができないという事態も起こり得るからである。たとえば、前の経営者がリース代金をきちんと支払っていなかったというケース。その設備機器類を使用するには、その不払い分を支払わなければならないわけだが、確認をきちんと取っていないと、前の経営者に逃げられてしまうということにもなりかねない。いずれにしろ、契約は契約である。前の経営者が結んだこととはいえ、業者もビジネスだ。どんなところでこちらの不利になるような契約になっ

設備機器類は、もしも前の経営者から「安く」買い取るのならトクであつても、リースの場合はそうとも限らない。どうせリース代金を払うのなら、最初から新しいものを入れたほうがいいということだってあるのだ。リース契約になっているのかどうか。もしもリースならどんな契約内容になっているのか。後々イヤな思いをしないために、仲介する不動産業者を通して、きっちりと確認することを忘れてはいけない。

空調関係も念入りにチェックする

空調設備は厨房の設備機器類と同様に、新品を買うとなるとかなりまとまった金額の投資になる。したがつて、これがそのまま使えないとなると、居抜き店舗の活用のメリットが大きく損なわれてしまう。

通常、空調設備は冷暖房設備と換気設備との二つで構成される。その意味では、いろいろな機器類を組み合わせてある厨房設備機器類のチェックよりも簡単といえばいえる。確認作業はずっと単純だ。しかし、飲食店の設備に慣れていないと、肝心のチェックポイントを見逃してしまうことが多いのもまた、この空調設備なのだ。

まず、冷暖房設備を考えてみよう。スイッチを入れてみて、きちんと冷風・温風が出てくるか。そのチェツクだけなら子どもにでもできる作業である。しかし、お店の冷暖房は、機械から冷風・温風が出るというだけではダメなのだ。問題は、店内隅々まで、限なく快適な冷房・暖房ができるかどうか、なのである。したがって、このチェックにはけっこう時間がかかる。ある程度の時間、冷房・暖房してみなければ、実際のところが正確につかめないからだ。

とくに、小さなお店の場合、オープンキツチンのカウンター席を活用することが多いなど、客席フロアの形が不規則な場合が少なくないが、そうすると、冷暖房の死角ができやすい。設備から直接風が来る場所は冷暖房が効いても、カウンターなどの角の部分で空気の動きが遮られたりして、効きのよくない場所ができやすいのだ。ある程度のことは仕方がないが、効き目のあるなしがあまりに極端な場合は、やはり一考を要する。

なお、冷暖房というと、客席フロアにばかり関心が向いてしまいがちだが、厨房の効き具合もしっかりと確認すること。厨房は自分たちが働くところなのだから、暑さ寒さくらい我慢すればいいという人もいるが、それは間違いだ。いまはそんな時代ではない。自分はいいとしても、そんな劣悪な労働環境ではスタッフが長続きしない。とにかく長時間働く場所なのである。

一方、換気設備だが、これもある程度の時間をかけて実際に機械を動かしてみることが基本だ。そして、お店を営業する場合と同じ条件でチェックすることが大切である。まず、冷房。暖房を同時に作動させるのは当然として、厨房で火を使った場合の煙の流れなども入念にチェツクする必要がある。換気など換気扇が付いていれば大丈夫だろうと思いがちだが、換気扇の能力によって、換気の具合にはかなりの違いが出る。とくに、焼き物や揚げ物メニューの多い業種業態の

場合、換気が十分でないと煙や油煙は客席フロアに流れてしまう。当然、お客様の居心地は悪くなるし、店内の汚れもひどくなる。その意味では内装の汚れ具合もバロメーターである。また、喫煙できるお店にする場合は、タバコの煙の換気も非常に重要なテーマである。店内に紫煙が淀んでいるようでは、これからの時代のお店とはいえない。

厨房設備を徹底チェックする

居抜き店舗とは、前に営業していた店舗を、そっくりそのまま譲り受ける契約の店舗のことである。厨房設備などの設備機器類からイスやテーブルなどの什器備品まで、お店の営業用に必要なものは一応、ひと通り揃っているわけだ。だからこそ、借りる際には保証金のほかに、それら設備類や内装の譲渡代金を支払うのである。

お金を払っているのだから、譲渡されたものは基本的にすべて活用できなければ意味がない。もちろん、その場所がほしいためにあえて居抜き店舗を借りたが、内装その他の設備は自分で一新する、という考え方の経営者もいる。それはそれで正しいビジネスのやり方といえる。

しかし、通常、居抜き店舗を借りる場合は、できるだけ従来のものを生かして投資額を抑えなければならない。お金をかけないでオープンするために、居抜き店舗を借りるのだから。のまま、手を加えずに使えなければおかしいということになる。余計な損をしないために、このチェックは念入りにしなければならない。

まずは厨房設備類のチェックである。

営業に必要な厨房設備類の種類は、お店の業種業態や店舗規模にもよるが、いずれにしろ、厨房設備は意外と金額が張るものが多い。たとえば冷凍冷蔵庫にしても業務用のものは、家庭の感覚とはひとケタ金額が違うといっても大袈裟ではない。調理師など厨房設備に関する知識や経験のある人なら常識だろうが、素人の場合、新品だとそんなに高い買い物なのかと驚いてしまうことも少なくない。

そこで、物件の賃貸契約の前に重点チェックに入るわけだが、チェックのポイントは大きく次の三つに分けられる。

・設備機器類が正常に作動するかどうか
・必要な設備機器類なのかどうか
・厨房に別の機器類を入れるスペースがあるかどうか

すべての設備機器類を実際に使ってみて、作動状況を確かめる。冷蔵庫などスイッチを入れるものは入れて、ちゃんと設定温度になるか確認する。ガス台やオーブン、グリラーなどは火力もきちんと確かめることが大切だ。したがって、ちょっとスイッチをひねってみるだけでは、十分なチェツクはできないということを指摘しておく。

こうした厨房設備機器類は、最初から酷使されることを前提に製造されており、通常は簡単に故障するようなつくりにはなっていないものだが、機械には当たり外れがつきものだし、前の使用者の使い方が荒いとかメンテナンスがいい加減だったといったことから故障していることもあり得る。前の経営者がかなり以前に撤退していて、長期間にわたって放置されていたために、調子がおかしくなっていることもある。

また、居抜き店舗といっても、その営業年数はいろいろだ。設備機器によっては、そのお店のオープン時から使われていたものもあれば、後から買ったものもある。いまはとりあえず使えていても、あまりに古いものの場合は、近い将来に故障することも考えられるから、その辺もしっかり判断しなければ、かえって高くついてしまうことがあるから注意したい。

厨房機器類も重要なポイントである。居抜き店舗でオープンするといっても、前のお店とまったく同じ業種業態とは限らない。というより、居抜きで成功するには、前のお店との違いをアピールしなければいけない。となると、必要な厨房機器類も変わってきて当然だ。多少のことは目をつむるとしても、あまりに不要な機器類が多いとなると、これもムダな投資になってしまう。どんな業種業態のお店をオープンするのか。その輪郭だけでも決めてから検討すべきである。

また、自分やりたい業種業態では、いまある以外にどうしても必要な機器類が出てくることもある。オープン時では無理としても、そのうち軌道に乗ったら買いたいというケースもあるだろう。したがって、将来の計画とは絶対に切り離せない。厨房機器類というのは、設置しようとすると意外と場所を取るものだ。そのためのスペースが確保できるのかどうか。慎重に検討しなければならない。

前の経営者が撒退した理由を調べる

当たり前のことだが、居抜き店舗は、以前にだれかが経営していた店舗である。その経営者が何らかの事情で、その店舗での商売をやめることになった。そこで、少しでも元を取り返そうと売りに出されているわけだ。

問題は、その「事情」である。商売をやめるといつても、理由はいろいろ考えられる。たとえば、もっともありそうなのは売上不振から撤退を余儀なくされてしまつた、というケースだろう。家賃・保証金が高めの立地の場合は、とくにこのケースが考えられる。なにしろ、毎月の家賃は飲食店にとって大きな負担である。そこそこの売上があつても、家賃に吸い取られてしまつて利益が出ないというのは、都心などの一等地立地のお店でよくあることだ。

逆に、繁盛店に成長して店舗が手狭になったとか、もつといい立地でさらに飛躍したいという理由で移転する、というケースもあるのが飲食業の世界だ。最初は一〇坪ほどの小さなお店だったのが、数年後に移転して、内装も立派なお店になつたというのも、別に珍しい話ではない。

また、経営状態が追い詰められているというほどではないが、あまりうまみがなくなつてしまつたので撤退するということもある。たとえば、オープンした頃は競争相手もあまりなくて順調だったのに、商店街が発展したことで競合店が増え、シビアな経営を迫られるといったケースだ。同業態で強力なライバルが出現したことがきっかけで撤退というのも、ひとつの経営判断である。

経営者が引退したための撤退というのもある。評判がよく経営は安定していたのに、後継者が見つからない。貯金もできたし、体力的にきつくなってきたから、この辺でやめてのんびり暮らそうというわけだろう。

以上は、 一般的に想定される撤退の理由だが、注意しなければいけないのは、傷害事件など問題が起きたために営業しづらくなった、というケースである。別にお店側に責任があるわけではなく、お客様同士のケンカだつたりしても、事が大袈裟になると、やはり客足は遠のいてしまいやすい。問題は、その事件などの印象が根強く残っている場合、店舗のイメージと重ねられてしまうことだ。お店の経営者も内容も変わったのに、それが理解されにくいというハンデイを背負ってしまうことになるからだ。

したがって、居抜き店舗を活用する場合は、撤退した前のお店の評判や撤退の理由について、 一応は調べておく必要があるということになる。調査といっても簡単で、物件の近所のお店などで聞いてみれば、ある程度の推測は可能だ。ただ、いまのお客様は過去がどうだったかということにあまりこだわらなくなっているから、昔のように神経質になる必要はない。警察沙汰などよほどのことがない限り、支障にはならない。むしろ、前のお店の評判を自分のお店づくりの参考にするという意味で、調査することをお薦めする。

立地条件を見極める

飲食店で成功する大原則は、出店する立地特性の見極めと、その特性に適応したお店づくりである。当然のことながら、この原則は居抜き店舗であっても新店舗であっても変わらない。立地選定という視点で見た場合の居抜き店舗と新店舗との違いは、選択肢が多いか少ないかということだけだ。 

一般に、貸し店舗といえば新店舗を指すのが「常識」だが、それはとりもなおさず、店舗市場では新店舗の数が圧倒的に多いことを示している。もちろん、ひと口に新店舗といっても、新築のビルやマンション内にある文字通りの新店舗もあれば、ビルやマンションは既存のものだが、店舗部分は前の造作を撤去してまっさらにしてあるケースもある。後者の場合は「カラ店舗」とも呼ばれるが、実際には新店舗といっても、このカラ店舗のケースがほとんどといつていい。

では、選択肢が少ない居抜き店舗は不利なのかというと、そんなことはない。なぜなら、新店舗だから「いい立地」にあるというわけではないからだ。数が多ければ選択肢も増えるのが理屈だが、いくら選択肢が多くても、立地条件が合わない物件では何の意味もない。とくに初めて開業する人の場合、数が多いゆえに目移りしてしまい、選択を誤ってしまう可能性も高いのである。この実例が多いことは、いまさらいうまでもないだろう。

一方、居抜き店舗は物件数自体がそれほど多くはないから、冷静に立地条件の是非を判定しやすいというメリットがぁる。しかし、メリットがぁれば必ずデメリットもぁる。居抜き店舗を活用する人が陥りやすいのは、立地条件を見極めやすいにもかかわらず、立地についてよく考えないでオープンを決めてしまうということだ。新店舗よりもはるかに投資額が少なくてすむというメリットに目を奪われて、立地の検討がおろそかになってしまいがちなのである。この点には十分注意してほしい。

要するに、店舗自体の状態がどうであろうと、もっとも大切なのは立地の見極めだということだ。このことをしっかりと頭に入れておくことだ。では、立地条件の見極めはどうすればいいのか。むずかしいのはここだ。あえて居抜き店舗を活用するのだから、家賃・保証金の高い物件は除外することになる。つまり、だれもが認めるような好条件の立地の物件が見つかる可能性はそれほど高くはないということになる。

しかし、誤解してはいけない。それはけっして「不利な立地」を選ばなければならないことを意味するのではないのだ。だれもが認めるから成功できるとは限らない。むしろ、だれも気づかなかったメリットを取り込むことで成功はぐんと近づく。それがビジネスというものだ。いわゆる「穴場」である。それには、どんな立地条件でどんな業種業態が有利なのかということを、きっちりと考えておくことである。

著者紹介:宇井 義行
コロンブスのたまご 創業者・オーナー

学業のかたわら、18歳から飲食店で働きながら実践的な飲食業を学び、23~25歳で6店舗の飲食店経営を手掛け、超繁盛化。赤字店の1ヶ月での黒字化など奇跡を起こし注目を集める。 26歳の時、実践的な「飲食コンサルタント」として独立。個性的な店、地域一番店を目指し、情熱ある現場直接指導に力を注ぎ、 全国の飲食店3000店舗以上を指導。指導歴日本一のフードコンサルタントとして数多くの難問を解決。不振店を繁盛店へと生まれ変わらせる手腕は業界屈指のリーダーとして国内外で高く評価されている。